3本の多重極電極(tetrode)を脳組織の近接した部位に刺入し、個々の電極の深さをミクロン単位で変えられるマニピュレータを自作し、麻酔下ネコの視覚皮質と外側膝状体からの多細胞同時記録実験を開始した。今年度の研究では、個々の部位の細胞活動の視覚刺激依存性は記録できたが、二つの部位から受容野が精度良くオーバーラップする細胞活動を安定に同時記録するためには、改善すべき問題点が存在することが判った。これは、それぞれの部位からの測定で使用するマニピュレータどうしの物理的障害や、測定中での電極位置のドリフトによる受容野位置の変化などの問題である。今後は、これらの技術的問題の改善と同時に、二つの領域間の神経活動における相互作用を解明するために提示する視覚刺激プロトコルの検討を進めていく計画である。また、海外共同研究者であるGrayとの共同実験で記録した外側膝状体からの多細胞同時記録データに対して、同じく海外共同研究者であるAertsenが提案したUnitary Event Analysis法の適用を試みた。今年度の研究では、4つの細胞の同時記録データを用いて、細胞2個以上の任意の組み合わせに対して、指定した時間精度内で相関発火するスパイクイベントを表示するプログラムを開発した。発火率が高いデータの場合に、区間幅の選択と相関発火イベント(Unitary Event)の統計的有意性検定の結果との関連において問題点が発見された。今後は、この解析法の数学的構造をより詳細に検討し、改善された方法により視覚皮質での細胞活動における同期振動現象のダイナミクスを解析していく計画である。
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