臨床の現場においても心血管造影を行うと心筋梗塞部位では血管新生によって心機能が維持されていることが極めて多い。しかし、血管新生が行われない心筋では梗塞周囲にアポトーシスが多発し、やがて心臓自身の機能が損なわれ、心不全を引き起こす症例が多発している。そこで、細胞レベルでの心筋虚血モデルを用いて心筋培養上清100リットルから各種カラムを用いて精製し、心筋虚血時に分泌される細胞内シグナル活性化因子を精製した。方法は、細胞を虚血再灌流刺激を行い、その培養上清を硫酸アンモニウムで処理した後、遠心分離を行い分泌タンパク質を濃縮した。その後、透析したのち、カラムでタンパク質を分離した。 各分画をMTT法でアッセイし、細胞死抑制因子を精製した。その結果、2つ分画から細胞死抑制活性が検出された。このうち低塩濃度で溶出した分画をさらに陰イオン交換カラムにかけ、2つの分画から細胞死抑制活性が検出された。これらのタンパク質はいずれも単一なタンパク質に分離されており、その分子量は33kDaおよび41kDaであった。現在これらの因子のアミノ酸シークエンスを行っている。飛行時間型質量分析計によるペプチドマップの結果からいずれも新規蛋白質であると予想されている。今回の実験結果では心筋虚血再灌流時には低分量から高分子量まで多くのタンパク質が分泌されていた。これらの蛋白質の受容体も精製を始めており、分子量33kDaの受容体のリン酸化が確認されている。これらのタンパク質のなかには強力な収縮活性を持つ因子や神経細胞特異的に凝集を引き起こす因子が含まれており、これらの因子の解明は心筋虚血の病態理解と治療薬の開発に大きな役割を果たすことが予想される。
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