研究課題
新生児期のラットはヒトの妊娠初期の胎児に相当し、性分化および卵巣を含む各器官発生に非常に重要な時期である。この新生仔期ラットに、合成エストロゲンとして知られているエストラジオールベンゾエイト(EB)を暴露し、その後の成長過程で起こる卵巣分化異常の分子メカニズムについての解析を行った。方法は、EBを生後1日から5日の連続5日間皮下注射により雌ラットに投与し、その後生後7日目、14日目、21日目に卵巣を摘出し、卵巣分化に関わる各因子の発現の変化を調べた。定量的解析は、RT-PCR法、ウエスタンブロット法を用いて遺伝子レベル、蛋白レベルでの発現をそれぞれ調べた。定性的解析は、卵巣を固定、パラフィン包埋後、8ミクロンの厚さの連続組織切片を作成し、in situハイブリダイゼーション法、免疫組織化学法を用いて遺伝子レベル、蛋白レベルでの発現をそれぞれ調べた。組織レベルでの形態異常はHE染色により解析した。以上の解析の結果、転写調節因子SF-1とその下流で制御されているステロイド合成酵素遺伝子、および二種のエストロゲン受容体の発現に定性的、定量的ともに変化が認められた。また、卵胞の発育の抑制が認められ、発育卵胞で発現するSF-1制御因子MISの発現が亢進していることが明らかとなった。この結果から、合成エストロゲンEBが、SF-1およびエストロゲン受容体を介して相互作用し、卵巣分化の過程でステロイドホルモン合成及び卵胞の発育に抑制的効果を与え、その結果卵巣の分化異常が引き起こされたという分子メカニズムの可能性が示唆された。
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