本研究では、内分泌かく乱物質の免疫毒性作用をTh1/Th2インバランス誘導作用の面から明らかにすることを目的とした。内分泌かく乱作用を有し、胸腺萎縮による免疫抑制作用が報告されいるトリブチル錫(TBT)のTh分化に及ぼす影響をin vitro実験系を用いて調べた。種々の濃度のTBT存在下にT細胞を除去した脾細胞を抗原提示細胞としてマウスナイーブCD4陽性T細胞を抗CD3抗体で刺激したところ、極めて低濃度からTh1分化抑制(0.001μM)とTh2分化促進(0.03μM)を誘導し、強いTh2優位性誘導作用を発揮した。このTBTによるTh2優位性誘導作用は、抗原提示細胞非存在下にプレートコート抗CD3抗体と抗CD28抗体を用いてナイーブCD4陽性T細胞を刺激した場合には観察されないこと、さらにTBTは抗原提示細胞のIL-12産生を抑制する一方、IL-10産生を増強し、TBTによるTh2分化促進作用は抗IL-10抗体添加によって中和され、Th1分化抑制作用はIL-12添加により認めれれなくなることから、TBTは抗原提示細胞のIL-12産生とIL-10産生のそれぞれ抑制と増強を介してTh2優位性を誘導していることが明らかになった。またTBTの生体内投与により卵白アルブミン免疫、あるいはN.brasiliensis感染マウスのリンパ節細胞のIL-4産生増強と、IFN-γ産生抑制が誘導されることから、生体内においてもTBTはTh2優位性を誘導することが示された。このようなin vivo、in vitroにおけるTBTのTh2優位性誘導作用は遺伝的な背景に影響されず、Th1優位のC57BL/6マウス、Th2優位のBALB/cマウス両者において認められた。TBTやその代謝産物であるジプチル錫やモノブチル錫がヒト血中において検出されることと考え合わせると、日常的なTBT曝露が依然として起こっており、生体内においてCD4陽性T細胞のTh1への分化抑制とTh2への分化促進を介してTh2優位性が誘導され、過剰なTh2型免疫応答によって誘発されるアレルギー性疾患の増悪を引き起こしている可能性が示唆された。
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