内分泌撹乱化学物質の一種であるダイオキシン類の毒性の一つに中枢神経毒性が示唆されているが、現在のところ必ずしもその確証は十分に得られていない。本研究では、ラットにダイオキシンを1回投与し、脳内神経伝達物質異常の発症を免疫組織化学法、c-Fos免疫化学法、組織化学およびウエスタンブロット法を用いて調査した。以下にその内容を要約する。研究成果は2編の論文に報告し、さらに1編は投稿中である。(胎盤・母乳暴露については前年度に一定の成果を得た。今年度はそれを発展させ、以下の研究内容で研究を行った。) 1.ダイオキシン急性投与による脳内メチオニン-エンケファリン(MEK)の活性化の証明 オスラットにダイオキシンを1回経口投与(50μg/kg)し、2週間経過後に脳内MEK活性を免疫組織化学的に調査した。対照群に比較して、海馬、扁桃体、室傍核、内側視索前核、淡蒼球、分界条床核を初めとする多くの前脳領域でMEK活性の上昇が認められた。 2.ダイオキシン急性暴露による拒食症の脳内機序に関する検討 オスラットにダイオキシンを1回経口投与(50μg/kg)し、脳内c-Fos蛋白の発現を免疫組織化学法を用いて経時的に調査した。投与後3日目の脳では、視床下部背内側核、室傍核、内側視索前核、扁桃体、分界条床核に顕著なc-Fos蛋白の発現が認められた。これらの神経核は摂食やエネルギーバランス、および体温調節に関係する神経核群と考えられていることから、ダイオキシン投与後の拒食症状と体温降下は、これらの神経核の活性化に関係するものと考えられた。 3.ダイオキシン急性投与による視床下部における一酸化窒素活性低下の証明 オスラットにダイオキシンを1回経口投与(50μg/kg)し、視床下部の一酸化窒素活性を免疫組織化学法、NADPH-diaphorase染色法、ウェスタンブロット法を用いて調査した。その結果、視床下部外側野、室傍核、脳弓周囲核において著しい一酸化窒素活性の低下が認められた。
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