研究概要 |
免疫組織化学法を用いて2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)によるチオニン-エンケファリン(met-Enk)の脳内変化を調査した。その目的でダイオキシンにもっとも感受性が高いとされるロングエバンスラットに致死量のダイオキシン(50μg/kg)を一回投与、または同量のオリーブオイルを1回投与した。投与後3日目に、met-Enk陽性細胞、陽性線維および終末の密度が増加した。その後さらに増加し、投与後2週間で最大になった。増加した部位は、扁桃体中心核、海馬CA3、室傍核、内側視索前核、前交連後脚間質核、淡蒼球外節、淡蒼球腹側部、分界条床核外側部であった。これらの結果は、ダイオキシンが中枢のエンケファリン系に影響を与えることを示しており、ダイオキシン中枢毒性発現のメカニズムを説明するうえで重要であると考えられた。さらに、TCDDの経口投与によるラット視床下部一酸化窒素合成酵素(nNOS)およびnicotinamide adenine dinucleotide phosphate (NADPH)-diaphorase (NADPH-diaphorase)発現に及ぼす影響について調査を行った。オリーブオイルに溶解した50μg/kgTCDDの投与1週間および2週間後の脳をウエスタンブロット法によって調べたところ、視床下部のnNOSの免疫活性が著しく低下していた。NADPH-diaphorase組織化学法標本では、視床下部外側野、室傍核、脳弓周囲核において著しいNADPH-diaphorase陽性細胞数減少が観察された。この実験は、TCDD投与によって視床下部の一酸化窒素産生量が低下することを示している。このことはTCDDによって引き起こされる摂食抑制(拒食症)発症の機序の一部を説明しているかも知れない。
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