内分泌攪乱物質の作用機序を解明する目的で、代表的化学物質であるビスフェノールAをラットに投与したところ、性ホルモンを代謝排泄するグルクロン酸抱合活性が低下することを発見した。このことは、性ホルモンの代謝排泄が滞り、生体内バランスを崩すことによる内分泌攪乱作用である可能性を示している。そこで、本研究は、このグルクロン酸抱合活性低下現象(UGT2B1mRNAの低下)の機序を解明することを目的とし、今年度は以下の実績を上げることができた。 1.ビスフェノールAはエストラジオールと同じく、二つの水酸基を持っており、この2つの水酸基がエストラジオールが受容体(ER)に結合する上で重要な働きをすることが分かっている。そこで、ビスフェノールAがERに結合して、その後UGT2B1mRNAの発現調節に関わっているかどうか明らかにするために、一つ水酸基のはずれたクミルフェノールをビスフェノールAと同様にしてラットに投与してその影響を調べた。その結果、クミルフェノールでは性ホルモンのグルクロン酸抱合活性は低下しなかった。つまり、ビスフェノールAによるUGT2B1mRNAの低下はERへの結合が関与していると予測された。 2.タモキシフェンはエストラジオールがERに結合するのを拮抗的に阻害するので、もしビスフェノールAがERに結合して上記作用を発揮するとしたら、タモキシフェンで作用が阻害されるはずである。そこで、ビスフェノールAとタモキシフェンを同時投与してみた。その結果、タモキシフェンで阻害された。 以上二つの結果から、投与されたビスフェノールAはエストラジオール受容体ERに結合してUGT2B1のmRNAの発現を抑制し、グルクロン酸抱合活性を低下させていることが明らかとなった。今後は、強い内分泌攪乱物質であるDESでも同様の作用があるかどうか、性差があるかどうか等その作用機序を比較していく。
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