研究概要 |
本年度はホルモンに対する線虫の応答についての精査を試みた.すなわち,線虫がエストロジェン,アンドロジェンに対して異なる応答性を示すことが分かっていたことから,ホルモン中間体および合成ホルモン剤の線虫の産卵,成長に与える影響を観察した.方法はステロイドホルモン前駆体および合成ホルモンをそれぞれ培地プレートに添加し,顕微鏡下で卵の孵化から成長過程・行動を観察すると同時に産卵数・孵化割合を計測し,5代にわたる影響を評価した.その結果,ホルモン前駆体であるエストロン,プレグレノロンは,エストラジオールで観察された線虫培養に必須なコレステロール代替能は認められず,成長・産卵を抑制することが分かった.また,合成ホルモン剤ジエチルスチルベストロールでは成長・産卵において毒性と判断すべき培地への添加濃度に応じた一定レベルの抑制がすべての世代において観察された.一方,エチニルエストラジオール,メチルテストステロンは著しい毒性を示すことはなく,ホルモン前駆体と同程度の抑制レベルであった.しかし,全てのホルモン剤添加群において,2代目以降に奇形が発生し易い傾向が見られた. ところで,このようなホルモン特異的な応答のメカニズムを明らかにするため,今年度はその入り口となるシグナルトランスダクションに注目した.エストラジオール暴露で観察される線虫タンパク質のリン酸化レベルの変動をリン酸化アミノ酸特異抗体によるウエスタンブロッティング法で分析した結果,リン酸化チロシン,リン酸化セリン/トレオニンそれぞれ用量依存的・経時的にレベルの変動がみられるタンパク質が数種検出されたことから,線虫において本来機能してないホルモンであっても生体内で特異的にシグナルが伝えられている可能性が高いことが示唆された.
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