研究概要 |
昨年度の研究で,線虫の産卵・繁殖を指標にする事でステロイドホルモンおよび合成ホルモンに比較的低濃度で特異的に応答し,経代的に影響が顕著になることが明らかにできたことから,本年度は内分泌撹乱物質とされるビスフェノールAおよび作用が疑われているフタル酸エステル類を同様の方法で評価することを試みた.その結果,ビスフェノールA暴露では急性毒性が全く生じない低濃度0.1,1μM暴露で2,3世代目から影響が現れ,4世代目では有意にControlに対して産卵数の減少や産卵数ピークの遅れが観察された.また,増殖数の減少が産卵数の減少より顕著なことから,艀化率が低下したことが予想された.また,フタル酸ジエチル,フタル酸ジシクロヘキシルは動物実験と同様に線虫に対してもmMの濃度でもほとんど急性毒性を示さなかったが,10nM、フタル酸ジエチル暴露群で,Controlに比ベピークの遅れ,産卵数の減少が観察され,それは世代を経るごとに顕著に現れた.総線虫数においても,フタル酸ジエチル添加群はControlより減少したが,孵化率は低下していなかった.また,フタル酸ジシクロヘキシルも同様の結果であった.形態観察では,いずれの化学物質暴露によっても,陰門に奇形を生じる個体の出現率が増加した.以上のことより,ビスフェノールAおよびフタル酸エステル類は非常に低濃度で線虫の産卵・繁殖に対して強い影響を示し,その影響は経代的に顕著になることが示唆されたとともに線虫の産卵・繁殖を指標にした本評価系はごく微量で生物に対して影響を及ぼすと考えられる内分泌撹乱物質の経代影響を調査するための有効な手段となる可能性を示すことができた.
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