研究概要 |
昨年度までの研究で,線虫の産卵・繁殖を指標にする事で世代を超えた経代影響を評価できることが明らかにできたことから,昨年度のビスフェノールAおよびフタル酸エステル類に続き,ベンゾフェノンおよびエストロゲンレセプターへの高い結合活性を疑われているアダマンチルフェノールについて検討した.ベンゾフェノンは比較的高濃度で急性毒性を示さなかったが,繁殖に及ぼす影響は急性毒性の1/100以下の濃度で産卵数および繁殖数の減少が観察された.また,アダマンチルフェノールは1世代目から低濃度でも孵化率の低下が観察され,多世代経過すると産卵数および速度の低下および孵化率の低下が観察された. 本年度はさらにシグナルトランスダクション系の変化についても検討した.線虫をエストラジオール(E_2)に曝露し,タンパク質のリン酸化レベルの変動を調べた.E_2に暴露した線虫から抽出した総タンパク質をウエスタンプロッティング後,特異抗体を用いて調査したところ,抗リン酸化チロシン抗体では66.1kDa,抗リン酸化セリン抗体では35.5kDaと24.0kDa,抗リン酸化トレオニン抗体では35.5kDaのタンパク質バンドが暴露前後で濃いバンドとして検出された.このことは,これらタンパク質が化学物質のエストロゲン作用を評価するためのバイオマーカーとして有用である可能性を示唆する. 以上の結果より,本評価系はごく微量で生物に対して影響を及ぼすと考えられる化学物質の内分泌攪乱作用で懸念される繁殖毒性を含めた化学物質の経代影響を調査するための有効な手段となる可能性を示すことができた.
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