研究概要 |
野生型とアリルハイドロカーボン受容体(Ah受容体)ノックアウトマウスにポリ塩化ビフェニール(PCB)ならびに多環芳香族炭化水素を投与し、肝・肺ならびに臓器のCYP1A1、CYP1A2、CYP1B1の誘導性をmRNAレベルで調べた。合わせてマウス肝ミクロゾームの薬物酸化活性を調べることで、これら環境中の内分泌かく乱物質の生体影響予測をおこなった。また、PCB投与マウスの組織中のPCB量をGC-MSで定量し、誘導によって引き起こされる薬物代謝酵素活性の上昇と、それに伴うPCB代謝との関連を追及した。用いたPCB化合物はカネクロール300(KC300)、カネクロール400(KC4500)、カネクロール500(KC500)、3,4,3',4'-四塩化ビフェニール(TCB)であった。また、メチルコラントレン、ベンツピレン、ジメチルベンズアントラセンなど合計21種類の多環芳香族炭化水素も用いた。mRNAの定量は、報告されているプライマーに我々の方法を導入しておこなった。PCBあるいは多環芳香族炭化水素化合物のなかで、PCBあるいは癌原性の強い多環芳香族炭化水素はAh受容体依存的にCYP1A1,CYP1A2,CYP1B1 mRNAを強く誘導したが、AhRノックアウトマウスではこのような誘導現象は観察されなかった。PCBのなかでもTCBが最も強い誘導性を示し、コプラナーPCBの生物学的作用の強さを確認した。カネクロールの誘導性はそれらの中に含まれるコプラナーPCBの量に依存する可能性がみられ、KC500の方がKC300より強い誘導作用を示した。メチルコラントレンなどの癌原性の強い多環芳香族炭化水素化合物の誘導剤と比較すると、KC500はどちらかというとCYP1A2の誘導性が強く、CYP1A1やCYP1B1の誘導性は比較的弱かった。組織中のPCBのGC-MSパターンを調べると、野生型とAhRノックアウトマウスの組織中のPCB異性体の代謝には大きな違いがないという結果であった。In vitroでのKC300のラットCYP2B1とヒトCYP2B6による代謝についてGC-MSを用いて検討した。その結果KC300中の異性体の減少割合が、ラットCYP2B1でとヒトCYP2B6より著しく速いことが明らかになった。他方、多環芳香族炭化水素はCYP1A1,CYP1B1を強く誘導したが、これらの誘導性は臓器特異性のあることが明瞭で、なかでもCYP1B1がCYP1A1に比べて多くの臓器に常在的に存在する傾向の強いことが明らかになった。このことは、このような癌原性の強い多環芳香族炭化水素が異なる臓器でCYP1A1,CYP1B1により代謝的活性化を受け、発癌のイニシエーションにつなげられることを示唆するものとして興味深い結果であった。
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