Hydrogenovibrio marinusの膜結合型ヒドロゲナーゼ(MBH)で特徴的に見られたIle残基をRalstonia eutropha由来MBHに導入し、サブユニット構造や活性中心の構造安定性に関与することが示された。興味深いことに、顕著に安定化されたMBHでは比活性の上昇が観察された。変異を組み合わせた多重変異型MBHを作成したが、単純な変異の組み合わせでは期待される相乗的効果は得られなかった。Desulfovibrio vulgarisの[NiFe]型ヒドロゲナーゼの結晶構造に基づいてホモロジー・モデルを作成し、変異部位の構造を推測した。変異導入部位に相当する残基はいずれも活性中心から14Å以上離れており、活性中心の構造に直接的な影響は与えないと思われた。H.marinusとR.eutrophaのMBHの構造は類似しているが、変異導入部位周辺のキャビティはH.marinus MBAの方が小さい傾向があった。また、H.marinusのHoxG内部には疎水的なIle残基が多く集まり、強固な疎水的コア構造を形成することが推測された。H.marinusのMBH遺伝子下流にはシトクロム-bおよびヘムc結合モチーフをもつ新規の電子伝達蛋白質と思われるORFが見出され、水素酸化系を構成すると推定された。MBHの熟成化蛋白質と思われる2つのORFが解明されたが、異種宿主でのMBH発現には不十分であった。周辺にはトランスポザーセなどの相同蛋白質がコードされており、本菌の水素酸化系が転移性である可能性が示唆された。 エネルギー変換に重要な利用ポテンシャルをもつヒドロゲナーゼの安定性に関与する構造的特徴が世界で初めて実験的に示され、同酵素の安定化や安定なミミックのデザインに有用な情報が示された。
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