本年度は、糸状菌をホストとした高効率生物合成システムを用いた新規化合物生産系の構築に重点を置き、単独の発現のみで化合物生産が可能な糸状菌タイプI型ポリケタイド合成酵素(PKS)の新規遺伝子クローニングとその発現、生産化合物の同定を進めた。まず、ジャガイモ夏疫病菌よりクローニングした新規PKS遺伝子pksNについて麹菌をホストとした発現系を構築し、アルタナピロンと命名した新規ポリケタイド化合物の生産を確認し、化学的に同定した。本化合物はデカケタイド鎖に8つのメチル基が位置特異的に導入された化合物であり、その生成を単独のPKSが触媒することなど極めて興味深いものである。また、ジャガイモ夏疫病菌自身では、本化合物の生産は認められず、糸状菌発現系を用いることで初めて生産、同定されたものと考えられる。現在、pksNを含む遺伝子クラスターの機能についても検討するため、クラスター中に含まれるoxidaseやP-450各遺伝子との共発現を試みている。 糸状菌においては、pksNのように新規機能をもつ様々なPKS遺伝子の存在が推定され、その発現による新規化合物の生産が期待される。そこで、各種糸状菌のゲノムDNAを鋳型にPKS遺伝子断片のPCRによる増幅、全長遺伝子のクローニングとその発現系の構築を進めた。 また、糸状菌発現系が糸状菌二次代謝酵素の発現にも極めて有効であることをAspergillus fumigatusの新規酵素Ayglpの発現、精製・特性化により、実証した。 テルペノイド化合物の生物合成系の構築を目的に植物由来のトリテルペン合成酵素の糸状菌での発現を更に検討したが、発現は確認できなかった。その原因として、植物と糸状菌での使用コドンの違いや、転写後のmRNAの安定性やプロセシングの差などが考えられる。
|