好熱性細菌Thermophilic bacterium PS-3由来の無機ピロフォスファターゼは大腸菌由来の酵素とは異なり、EDTA存在下では酵素活性を示さない3量体で存在し、また、分光学的測定から熱に極度に不安定である。この3量体状態にマグネシウムイオン等二価金属を添加すると3量体二分子が会合して6量体となり、初めて生物活性を発現し、同時に熱安定性を示すようになる。そこで本年はこの二価金属による熱安富性の発現が、二価金属そのものによるためなのか、あるいは、3量体の二量化によるものなのかを確かめた。 3量体の二量化にはHis-118とHis-125が深く関与していることが判明しているが、大腸菌酵素ではHis-136とHis-140が6量体形成に重要である。PS-3酵素のHis-125と大腸菌酵素のHis-136は相同の位置に存在するが、大腸菌酵素のHis-140に拒当するPS-3酵素のアミノ酸残基はArg-129である。そこで部位特異的変異法によりArg-129をHisに変換した変異酵素を作成し、その変異酵素の酵素学的性質、タンパク質化単的性質、熱安定性等を測定した。変異導入により酵素学的諸性質はwild type酵素と何ら変わることがなかった。しかし、分子量はマグネシウムイオン非存在下でも約70KDの値を示し、6量体構造をとっている事が判明した。また、マグネシウムイオン非存在下70℃、1時間加熱しても、また、マグネシウムイオン存在下85℃、1時間加熱しても、全く酵素活性は消失しなかった。この事は、本酵素タンパク質の熱安定性は主としてサブユニット-サブユニット間相互作用によりもたらされる事、ならびに、マグネシウムイオン等二価金属の添加により付加的に加えられることが判明した。
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