前年度に引き続き、女人禁制関連の史料収集と現地調査を精力的に実施した。とくに女人禁制条項を含む寺院法制文書(いわゆる「女人禁制文書」)については、中世後期のものを中心に、これまで未見の新たな文書を見い出すことができ、前年度までに確認した約70通にさらに数遍を追加することができた。これらの禁制が定められた背景はいずれも不婬戒に起因するもので、当初からの予測が一層裏付けられたことになる。併せて、恐山(青森県)、日光二荒山神社(栃木県)、弥勒寺(群馬県)などの現地調査では、近年忘却されかけていたかつての女人堂の所在地点とその現状を確認するとともに、周辺集落において女人禁制伝承を得ることができた。一方、女人禁制の反対概念とされてきた「女人救済」についても、信濃善光寺等の事例を素材にして検討を進めた結果、両者は必ずしも相反する思想ではなく、とくに禅律系では女人禁制(僧寺)と女人救済(尼寺)が同一宗派内で併存している事実を指摘して、通説に再考を迫る見解を提示した。 本年度は最終年に当たるため、現地調査による女人禁制伝承の収集をより広範囲に実施するとともに、「血盆経」の流布の実態、唱導文芸における女人説話の構造、「服忌令」の伝存状況と本文検討などについても着手して、「女人禁制」が女性差別事象に転化する要因と背景についても解明する予定である。
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