女性兵士の問題は、男女平等社会を目指す立場--軍隊での機会均等の実現--と暴力--暴力装置としての軍隊--の容認という矛盾を意味し、ジェンダー研究の領域において重要なトピックとなっている。しかしながら、これまでの研究では理念が先行し、女性兵士の実態というものが十分見えてこなかった。とくに日本においては、軍隊そのものが現実味を欠いていたり、また軍隊について書くことがそのまま軍隊や戦争を支持すると誤解されやすい状況があった。こうした中で欧米の女性兵士をめぐる文献や論争の紹介がなされ、自衛隊で働く女性兵士たちの存在にも注目が集まるようになった。こうした状況で本研究ではアメリカと日本の女性兵士の歴史や実態の比較を行うことにした。方法は文献やインタビューによる。日本では男女雇用均等法の成立が女性への門戸開放への大きな転機となった。しかし、そこで大きな論争は生じなかった。これに対し、合衆国では1970年代末から女性兵士の問題が重視され、一部の女性団体は軍隊の門戸開放を強く主張してきた。その結果、一部の戦闘部門をのぞきほとんどの部隊が男女混成となった。また女性兵士とその夫、あるいは職場での関係から、女性兵士の直面する問題などを明らかにした。概して、米女性兵士は結婚後も軍務に従事し、ときに夫が除隊する場合がある。こうした事例は自衛隊の場合認められない。しかし、米兵と同じく同僚と結婚する率は高いと思われる。軍隊が一般社会とどのくらい特殊なのか、ということも本研究の中心課題である。一般化はむずかしいが、民間企業などに比べて男女の平等が自覚され、かつ制度化されている。こうした特質が一般社会に受けいられるかが重要な課題と思われる。
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