平成14年度には、以下の2領域について研究を実施した。 1.第2次世界大戦後の東アジアにおける国家的性売買統制の比較史・関係史的研究 韓国・沖縄・日本本土・台湾について13年度からの文献収集・フィールドワーク・研究交流を引き続いて実施し、日本がこれら4地域に定植した公娼制度が大戦後にはそれぞれ冷戦こ照応して新たな公娼制度に変容した過程を明らかにした。大戦後の公娼制度に関しては、従来一般に、GHQの廃娼令や国際条約に規定されて廃止され、国際的潮流に即して売春防止法が制定されたと説明されている。だが本研究は4地域の性売買統制の変容過程を検討してこれまでの定説を覆し、米国による冷戦政策が東アジア諸地域に米軍の利害を反映した新しい性売買統制を定着させた事実を明らかにした。 2.冷戦下の日本における女性の受難と抵抗についての研究 13年度に実施した日本本土6地域の研究に加えて、青森県下北半島・三沢市・八戸市、宮城県仙台市・大寺原、奈良市において調査を行い、米軍との関わりについて、特に(1)ローカル新聞の記事や地元住民の記憶にのこる米軍性暴力事件と被害女性の闘争、(2)米軍基地と在日朝鮮人コミュニティー、とりわけ米軍買売春と在日朝鮮人の関係性に着目して研究を行った。またこれら諸地域の事例調査と同時に、全国の都道府県警察史ならびに近年相次いで出版されている地方自治体発行の女性史を総覧し、米軍性暴力事件や在日朝鮮人をめぐる言説を調査・分析し、一般に暴力や差別の被害者である女性や朝鮮人の側が落ち度を非難される一方、米軍側の罪が軽視されてきたことを明らかにした。
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