本研究の目的は、女性と子どもの身体に対して行われる、性と生殖に関する国の政策が、どのように地域社会や個人へと繋がり、個々の女性の身体に影響を与え、個人を規制し、既存の生活を変容させていくのかを究明することにある。この目的達成のために、本研究では、厚生省児童局起案の母子健康センター事業(1957年予算化)という具体的政策を事例として取り上げる。本年度は、次の二つの目的を達成する研究計画を立てた。第1に、2003年現在も助産と母子保健の両面の機能を有して事業を継続している母子健康センター施設を見いだし、当該施設が継続しつづけている要因を解明。第2に、近年まで助産と母子保健の両面の機能を有して事業を継続していた母子健康センター施設に関する詳しい聞きとり調査を実施し、施設開閉の要因を明確化する。 第1の目的に添う施設が存在することを、本年ようやく見いだした。岐阜県東白川村では、公的には「村営保健センター」と称しつつ、昭和43年に設置された母子健康センター施設を、機能はそのまま、平成7年に建て替え・改修工事を行い、今も継続・運営していた。開所から調査時現在までの分娩総件数は2174(村内外者が利用)で、2002年現在も年間分娩総数(約50件)は激減していない。現在同施設で働く助産師、草創期に同施設で働いていた助産師・同町保健師、役場職員等に聞きとり調査を実施した。その結果、運営継続の要因として次の5点が明らかになった。1)村長・村議会が同施設の必要性を十二分に認識していること(例:村長や村議会議員の子孫等も同施設を活用し、施設の利便性は良く、安全で安心感ある家庭的出産をしたと実感していること。為政者に出産は病気であるという考え方が見られないこと)、2)嘱託医師の協力体制が強固に作られ続けていること、3)先輩助産師が後輩の助産師を育成していること(助産所出産における技術・心得等の伝達/継承)、4)施設で働く助産師同士が施設内の情報・入所者の情報を共有し、相互の料力・支援体制が作られていること、5)役場保健師との連携・相談体制が円滑であること。 第2の目的達成のために本年は北海道地方(利尻富士町、斜里町、清里町、北檜山町)を中心に調査を実施した。その結果、北海道内の母子健康センター施設は平成一桁期に、ほとんどの施設が「助産部門」を病院に移管していたことが明らかになった。その理由の大部分は上記の1)と2)に問題点やトラブルが発生し、その結果、閉鎖されててきたことを確認した。中には、住民運動も引き起こされたが、それでもなお助産部門は閉鎖された。 以上の聞きとり調査データの資料整理も7割程は終了した。本年得られた目的第1の成果は貴重であり、より詳細に「公営助産所運営の要因」を解明する必要がある。また、来年は「施設開閉をめぐる住民運動」が引き起こされた地域も調査対象とし、なぜ住民運動(助産施設利用者女性達が施設閉鎖に反対の要請・嘆願を実施)が成果を上げなかったのかをも含め、調査・分析を進める予定である。
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