現行の自由連合州体制への批判が一般化し、プエルトリコの言論界においても国民国家概念の相対化が進んだ1980年代以降の時期について、ナショナル・アイデンティティの問題がフェミニズムの議論のなかでどう扱われてきたかを解明するために、現地研究者やコミュニティ活動家のインタビュー調査を中心とした研究を実施した。その結果、次のような点が判明した。 1)プエルトリコでは、女性たちは、女性問題解決に道筋をつける過程で、これまで植民地問題を中心に対立を続けていた既成政党政治のあり方に変更をもたらし、2)米軍基地問題では、既存の政党組織を乗り越えた政治活動を女性たちが中心となって担い、3)米国本土では、プエルトリコ人女性が、マイノリティグループの女性たちとともにコミュニティ活動に携わり、これまでとは異なるアイデンティティが生まれてきていることが判明した。これらの調査結果から、フェミニズムが既存の植民地問題を軸とした政治構造に対して新たなパラダイムを提起していること、しかもそれは、プエルトリコ社会のみならず、米国社会に対しても新たなパラダイムを提起していることが判明した。 しかし、プエルトリコ女性のフェミニズムとナショナル・アイデンティティの関係に関して多くのことが判明した反面、研究として不十分な点も露呈した。つまり、1)フェミニズムが提起した既存の政治構造への変更と90年代以降にプエルトリコの言論界に新たに出現したradical statehoodとの関連、2)他のマイノリティグループとの関係および米国ナショナリズムとの関連、3)米国本土ヒスパニック人口増加に伴うプエルトリコ政党の対応変化、など、調査領域の拡大の必要性も浮き彫りになった。 調査結果は、論文としてまとめ発表した。
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