本年度は、「障害児の母親」へのインタビューと、「健常児の母親」のインタビュー、育児体験手記等の質的分析より、両者の育児意識の比較分析を試みた。 障害児の母親に対するインタビューは、当事者グループのリーダーに紹介を依頼した。障害の内容は、知的、情緒、身体、重複、重度重複(医療的ケアを常時必要とする児も含む)であり、母親の年齢も20代、30代、40代、50代、60代と、幅広く対象とした。インタビューは、テーマを大きく設定した上で自由に語ってもらう半構造化面接で、許可を得た上で録音し、逐語録化し、質的分析を行った。 健常児の母親に対しては、インタビュー、育児体験手記、インターネットによるトークなどを分析の対象とし、質的分析を行った。 両者の育児意識を比較すると、次のような特徴が伺われた。 「障害児の母親」は、障害児の出産により、子の人生に対する責任を強く感じ、子に対して自分をトータル・コミットする。そして、その結果、療育や訓練といった育児に対して、ともすると他の犠牲をかえりみずに、積極的に参加していこうとする態度が生まれる。これらの育児意識は、母親自らの内発的な動機づけから生まれるものであることに、特徴がある。 それに比較して「健常児の母親」は、「障害児の母親」ほど強いトータル・コミットメントの体験を持たず、しかるに、周囲からは「よい母親像」を期待されるなど、周囲との関係の中から育児ストレスを体験するケースが見受けられた。したがって、これらの育児意識は、規範的拘束と関連が深いことが示唆された。
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