障害児の母親が、専門職、家族や親戚、他の母親等との社会的相互作用を通して、母親意識を形成、変容させていくプロセスを明らかにすることを目的として、障害児の母親23名への半構成的インタビューから得られたデータを、グラウンデッド・セオリー・アプローチを参考に分析した。分析結果からは、主として以下が明らかになった。1)障害児の母親は、「子へのトータル・コミットメント」の意識を形成していた。すなわち、母親が情緒的に子と一体化し、子の障害軽減を自分の使命として、自己犠牲を払ってでも、子の人生や障害、子のケアに対して母親が全面的に引き受けていこうとする意識である。この意識の形成には、専門職や他の母親の役割期待が影響をもたらしていた。2)障害児が生まれたことに対する義理の父母からの非難は、母親の自責感を強化することを介して「子へのトータル・コミットメント」の形成に影響をもたらしていた。3)専門職や他の母親の役割期待と、母親自身の「トータル・コミットメント」の意識との絡み合いから、「役割的拘束」が生じていた。すなわち、「子へのトータル・コミットメント」を、母親が当然果たすべき役割として、遵守を要請する周囲からの圧力としての「役割的拘束」を母親は感じていた。4)しかし、役割的拘束の程度や意味内容を意識の中で自己調整すること、具体的には、役割期待の排除、役割期待の自己調整、役割期待への反撃、役割期待の無意味化、サンクションの無意味化、呈示モードの使い分けなどの方法を用いることで、役割的拘束を自己調整するようになると、「子へのトータル・コミットメント」に変化が起こり、子が障害を持つことに母親は満足感をも感じるようになっていた。
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