本研究は、「障害児の母親」の意識が、社会的環境、すなわち「家族や親戚」「保健・医療・福祉・療育の専門職」「他の障害児の母親」「世間の目」等との相互作用の中で、形成、変容していくプロセス、さらにその規定要因を明らかにすることを目的とするものである。 この目的に対し、障害児の母親等へのインタビュー、障害児の母親への配票調査を行い、質的、量的側面よりアプローチした結果、以下のような研究成果を得た。 1.障害児の母親は、子と一体化し、子の障害軽減を自分の使命として子の人生や障害を全面的に引き受けていこうとする‘トータル・コミットメント'の態度を形成させていた。 2.その後、母親は、トータル・コミットメントから得られるものと失うものの両側面を認知し、葛藤の中でケアを行うようになっていった。 3.障害軽減という目標が保たれていれば、トータル・コミットメントは維持されるが、障害軽減を諦めざるを得ない経験をし、トータル・コミットメントで失うものの方が大きいと判断した場合、それまで母親を拘束していた母親役割規範を意識の中で自己調整した上で、トータル・コミットメントを低下させていた。 4.母親は、子へのコミットメントを低下させることで、子、自分、他の家族にどんな影響があるかを評価し、評価しだいで、コミットメントの再調整をしていた。 5.トータル・コミットメントの低下が起こることで、むしろ母親は、子に障害があることへの肯定感を得ていた。
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