本研究の目的の一つは、近年の性と生殖や出産に関する研究のなかでも、まだ未開拓の領域である近代初頭の農村女性の出産と身体観について、在付女医のカルテを手がかりに明らかにすること、二つには、近世後期の在付医のカルテとの比較により、近世から近代への展開を明らかにすることにある。そのために、本年度は、近世から近代への女の身体の位置と出産と身体観をめぐる問題の所在を明らかにするために全体の見取図を描いてみるという作業をおこなった。その意図は、全体の見取図をまず描き、そのことを経由することで、カルテという個別の女たちに関わる史料の読み解きが可能であると考えたからである。その結果、近代西欧医学導入以前の産科学が女の身体をどのようにみていたかを明らかにすることで、近世から近代への展開の内実がより明らかになるという見通しを得ることができた。また、近世後期の女の身体や生殖をめぐる状況を、捨子関係史料から探るという作業をおこなった。その結果、近世後期にあっては、女たちが妊娠、出産により命を失う場合や母乳の不足、欠乏も多くみられた一方で「家」のなかでの子供や女の生命への関心の高まりがみられることが明らかになった。本年度は、以上のように女の身体をめぐる全体の見取図を描き、問題の所在を明確にすることに重点を置くとともに、カルテの解読作業をすすめ、ほぼ半分について解読を終了した。
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