研究概要 |
本研究は,流域における水循環利用システムの最適化に寄与できるような感染リスク評価モデルの開発を目的とする。本年度は,以下の研究を行った。 1.河川水中における病原ウイルスの挙動に関する研究 河川水中における病原ウイルスの挙動のうち最も重要である,河川水中の濁質へのウイルスの吸着と,遊離状態のウイルスの不活化に関する室内実験を行った。水系感染を引き起こすウイルスの多くはピコルナウイルス科に属しているため,その中からポリオウイルス1型をモデルウイルスとして用いた。その結果,河川水中のウイルスの濁質への吸着率は,濁質濃度にほぼ比例して増加することが観察された。このデータは,河川水中のウイルスの濁質への吸着のモデル化に非常に有用である。また,遊離状態のウイルスは,初期に急速に不活化し(約2日で濃度が1/10になる),その後の不活化は緩やかであった。このように,河川水中のウイルスが二段階の不活化を示すことは,新たな知見であった。 2.下水処理水再利用による渇水被害の低減と感染リスクの評価 昨年度に引き続き,感染リスクと渇水被害を同時に評価できるモデル開発を行った。阿武隈川中流域の福島市を対象として,過去の日流量データから,連続する二日間の流量の同時発生確率を記述する確率マトリクスを作成した。この確率マトリクスを用いて毎日の流量を予測し,その流量から福島市の渇水被害(累加不足率[%・day]で定義)を評価した。また,予測された(取水点付近の)流量が少ない場合には下水処理水を水道原水の一部として再利用するシナリオを設定し,ポリオウイルスを例に感染リスク評価を行った。その結果,塩素消毒前の処理水を再利用する場合,渇水被害低減と感染リスク上昇というトレードオフの関係を定量的に示すことができた。塩素消毒を施した処理水を再利用する場合には,感染リスクを上昇させずに,渇水被害を低減することが可能であった。
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