研究概要 |
本年度は,茨城県十王町近郊の花崗岩源流域および栃木県日光市近郊の流紋岩源流域において,水文観測および渓流水・湧水の無機溶存成分,同位体分析を実施した. 花崗岩流域においては,湧水のトリチウム分析を実施し,これを基に地中水のピストン流モデルを構築し対象流域における地中水の平均滞留時間を推定した.その結果滞留時間は,平均で約20年と見積もられた.一方,流域の土層構造も併せて測定しその結果を基に,地中水収支から見積もられた滞留時間は,約1.3年であった.異なる2つの手法によって推定された地中水の滞留時間が異なるのは,以下の理由によるものと推定される.すなわち,地中水の挙動が,土層中のみならず基盤岩中にも及んでいること,また基盤岩中も含めた地中水の流動が存在するため,地形的な流域内に地中水の流動が閉じないことによるものと思われる. 一方,流紋岩流域では,3つの流域において,渓流流量を中心とした水文観測が実施された.その結果,降雨に伴う渓流水の流出は,細かい降雨ピークに応答しつつ,徐々に遅れた流出応答が基底流量を増加させるような効果を持ち,そのため,降雨の進行とともに流出が全体的に高くなる傾向がみられた.また総降雨量600mmの台風通過時には,3つの流域において小規模な土石流が発生したものと判断された.この土石流は3流域とも,積算降雨量250〜280mmの段階で発生した.このことから,積算降雨量250〜280mmが土石流発生に対し一種の閾値である可能性がある.
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