北海道内およびその周辺地域におけるオオアシトガリとエゾトガリの地域個体群間の遺伝的つながりを調べる前に、これらの全分布域に対して北海道、及び周辺の地域の個体群がどのような系統的位置関係にあるかを調べる必要がある。そのためにはマイクロサテライト遺伝子のような進化速度が極早い遺伝マーカーでは不適である。そこでミトコンドリアのチトクロムb遺伝子を用いてオオアシとエゾの各地域個体群の系統について調べた。その結果、オオアシはエゾよりも最終的に北海道に分布を広げてからの時間が短いことが示唆された。またエゾでは北海道の個体群はサハリンから大陸にかけての個体群とはかなり系統的にことなっていることが示された。このことからエゾトガリの北海道の個体群はそのほかの個体群と別れてからかなり時間がたっていると思われた。 今回の研究テーマのメインの遺伝マーカーであるマイクロサテライト遺伝子であるが、オオアシ、エゾに関して独自に遺伝子の単離を試みた。多数の候補遺伝子座が見つかったが、選択への中立性やハーディー・ワインバーグ平衡からのずれ等により、遺伝マーカーとして適切でないものあった。そのため既に他の種で見つかっているマイクロサテライト遺伝子をオオアシ、エゾにも適用できるか検討した。その結果、オリジナル、既発表のものも含めて、オオアシで5つ、エゾで8つの遺伝子座が実際の分析に使用可能であることが分かった。オオアシでは道内のいくつかの個体群で分析をおこなっているが、島嶼で遺伝子がホモになる可能性が高いことがわかった。しかし、現在はオオアシで更に多くの個体群での分析とエゾの分析を続行している最中である。
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