本研究用のサンプルとしてエンマムシ科甲虫約60種を集めることが出来た(国内およびインドネシアのサンプリング調査により採集した約50種と国内外の研究協力者から提供をうけた約10種)。このうち5科8亜科29属49種についてDNA抽出を終了した。抽出部位は核DNAの28S、ミトコンドリアDNAND2および16Sである。28Sにおいて、もっとも長いシークエンスが得られ、多くの種で抽出が可能であったため、この部位を用いて、近隣接合法よる系統樹を作成した。 その結果、エンマムシ科全体の系統樹を作成することが出来た。特に、エンマムシ族など数族において単系統性が強く示唆される分岐図が得られ、属間の系統も明らかになり、これは従来の形態による系統と一致するものであった。一方、オオマメエンマムシ亜科は、従来の分類とは異なり多系統であることが示唆された。また、亜科レベルの系統関係は、ブーツストラップ値が低く、不明なままとなった。トポロジーからは従来の形態系統と一致する部分が多かった。本研究の目的の一つである「エンマムシ科の分子系統の構築」は不十分ながら達成された。 もう一つの目的である「形態系統と分子系統の比較、および多様性創出のパターン比較」については、分子系統の結果に依存するために、十分な検討は行えなかった。しかし、一部の分類群においては前述のように、形態と分子の系統の一致・不一致を見いだすことが出来た。多様性の創出に関しては、その基礎情報なるエンマムシ科の生態的知見について、海外共同研究者Mazur氏と情報の集積を行った。この作業により、系統樹にマッピングする情報が整理され、将来の研究を行うための準備が整った。 これらの結果は、日本昆虫学会全国大会および北海道支部会・日本鞘翅学会大会において、計3回の口頭発表として報告した。
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