生殖細胞における自然突然変異の特性を理解する目的でlacZ遺伝子を導入されたマウスを用い以下の点を明らかにした。 (1)減数分裂を始める前の幼若期(17-19日令)及び減数分裂の盛んな2ヵ月令で睾丸を摘出し自然突然変異頻度と変異の分子型を解析した。その結果両者は質的にも量的にもほとんど差異は認められなかった。このことから減数分裂に伴う突然変異増加はないものと考えられる。また睾丸の自然突然変異の分子形を体細胞組織での自然突然変異のそれと比較するとDNAポリメラーゼのスリップに由来すると考えられる欠失型変異頻度が少ないことが分かった。これは生殖細胞ではミスマッチ修復機能が高く、それに関連する変異が少なくなっていることを示唆している。 いろいろな型の突然変異の中で欠失変異は遺伝情報の大きな乱れにつながることが多いので、生殖細胞で欠失型変異が少なく抑えられていることはゲノム保護のため有効な戦略と思われる。 (2)生殖細胞におけるミスマッチ修復の重要性を確認するためにミスマッチ修復に関与しているMlh-1遺伝子を欠損させたマウスを導入しMutaマウスとの交配によりMlh-1(-/-)・lacZ(+/+)マウスを作成し、そのマウスの幼若期(17-19日令)及び成熟期(2カ月令)での睾丸の自然突然変異を調べた。その結果、2つの時期のいずれにおいてもスリップに由来すると思われる欠失型変異の出現が大幅に増加した。このことは生殖細胞ではミスマッチ修復活性がスリップ型変異の抑制に働いていることを示している。ただし、同じスリップ型変異でも挿入型変異の増加は見出されなかったので、両者は区別されているものと考えられる。
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