1 DNA多型の保有機構に関して、本年度は、集団が任意交配集団でない場合の理論的研究を行った。特に、集団がt世代前に分化したが、分集団が完全に分化するのに時間がかかるというモデルを構築した。このモデルでは、分化の効果と移住の効果が共に重要である。このモデルから以下のことが明らかになった。(1)分化の効果が顕著に現れる条件が存在する。(2)移住の効果だけでDNA多型の量を説明できる条件が存在する。(3)両方の効果を同時に考えなければならない条件が存在する。(4)これらの条件は分化時間、移住率、移住が起きている時間によって決定される。このモデルはさらに集団の分岐時間を推定する上でも、重要である。すなわち、不完全は分岐をどう捕らえるかということであるが、これは今後の課題のひとつである。 2 本年度はさらに、突然変異率が非常に高いとき、自然選択が有効に働くかどうか、数理理論とコンピュータ・シミュレーションによって研究し、以下の結果が明らかになった。(1)突然変異率が高くなると自然選択の有効性は低くなり、遺伝的浮動の重要性が増す。(2)しかし、集団の平均適応度は減少する。このことは、突然変異が非常に高い生物、たとえば、RNAウイルス、において重要である。すなわち、このような、生物では自然選択はあまり働かず、進化は主として偶然による遺伝的浮動によって決定されることになる。ただし、集団の平均適応度は減少するため、種が絶滅する危険性がある。これらの推論をどのように検証するかは、今後の課題である。
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