集団(生物種)内には、多量の遺伝的変異が維持されている。この遺伝的変異の保有機構に関して、二つのまったく相反する仮説が提唱された。一つは平衡仮説であり、もう一つは古典仮説である。タンパク質多型の研究は平衡仮説の普遍性を否定しているが、平衡仮説によって説明できるタンパク質多型もまた知られている。1979年以降、遺伝的変異はDNAのレベルで研究できるようになり、遺伝的変異(すなわちDNA多型)の保有機構に関して、中立説、弱有害仮説、ヒッチハイキング説、超優性仮説、頻度依存選択説など、数多くの仮説が提唱されるようになった。 DNA多型の保有機構に関して、集団が任意交配集団でない場合の理論的研究を行った。特に、集団がt世代前に分化したが、分集団が完全に分化するのに時間がかかるというモデル構築した。 DNA多型の保有機構として重要な自然選択と集団構造との関係を明らかにした。集団構造としては有限島モデルを用い、以下のことが明らかになった。DNA多型量に対する優性の効果は、分集団間の移住率が低くなると減少し、移住率が非常に低いときはその効果は完全になくなる。同様のモデルを用い、分子進化速度についても研究を行なった。その結果、分子進化速度に対する優性の効果は、分集団間の移住率が低くなると減少するが、移住率が非常に低くなってもその効果は完全になくならないことが明らかになった。このことは、優性の度合いは、移住率が非常に低いとき、DNA多型量と分子進化速度に異なった影響を与えることを意味している。
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