ミドリイシサンゴ幼生は、着生・変態の開始には基盤上の微生物の特定の種類が必要であると考えられている。そのいっぽう、付着性微生物にとっては、サンゴの着生は生存の競合を招くため、着生を阻害することも考えられる。そこでミドリイシ幼生の着生に影響を与える付着性バクテリアのスクリーニングを行った。実際に幼生が着生した沈水基盤部分の表面をかき取って寒天培地にて単離培養し、ミドリイシ幼生に対する影響を評価した。460株のうち8株が変態を誘導した。着生に良好な場所であっても、培養可能なバクテリア叢における着生誘導株の頻度は高くないことが判明した。これらのうち3株についてはリボソーム遺伝子の配列を決定し、いずれもAlteromonas属であることを明らかにした。また、着生阻害作用を示すバクテリアを2株単離し、その作用様式を調べた。変態を誘導する神経ペプチドホルモンの作用に対し、1株は短時間、もう1株は長時間の変態阻害作用を示した。いずれも毒性によるものではなかった。また、変態を一過的に阻害する神経ペプチドホルモンとは別の経路によって作用することが明らかになった。この2株は、リボソーム遺伝子の配列の決定し、いずれもPseudoalteromonas属であることを明らかにした。スクリーニング母数との比較から、着生・変態を阻害するバクテリアの棲息頻度は高いことが推測された。これらのことから、基盤上には、着生を誘導するバクテリアはわずかであり、着生を阻害するバクテリアはかなり多い割合で棲息していること、ミドリイシ幼生はそのような場所に着生するという複雑な様相が明らかとなってきた。
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