ミドリイシサンゴ幼生は、着生・変態の制御には基盤上の微生物の特定の種類の認識と、それに続く体内反応が関わっていると考えられる。そこでミドリイシ幼生の着生に影響を与える付着性バクテリアのスクリーニングを行い、着生変態を誘導するまたは阻害するバクテリアを単離した。着生に良好な場所であっても、基盤上には、着生を誘導するバクテリアはわずかであり、着生を阻害するバクテリアはかなり多い割合で棲息していること、ミドリイシ幼生はそのような場所に着生するという複雑な様相が明らかとなってきた。 ミドリイシサンゴ幼生の変態を誘導できる神経ペプチドについて、アミノ末端からの欠失やアミノ酸置換によるさまざまな改変ペプチドの活性を調べることによって、活性に重要な構造を明らかにするとともに、幼生はその構造を厳密に識別することが明らかになった。カイウミヒドラではGLWamideという3残基さえあればアミノ末端側の構造にかかわらず変態誘導活性を示すのと対照的である。いっぽう、上記ペプチドによるミドリイシサンゴ幼生の変態誘導に対する抑制効果を有する別の神経ペプチドの作用を調べた。このペプチドの添加によって、変態誘導ペプチドによる幼生の変態を抑制できるが、抑制効果は3時間程度しか持続せず、幼生はペプチドに対する感受性を喪失することが明らかになった。カイウミヒドラでは変態抑制効果が永続的であることと対照的である。 着生阻害作用を示すバクテリア2株の作用様式を調べた。変態を誘導する神経ペプチドホルモンの作用に対し、1株は短時間、もう1株は長時間の変態阻害作用を示した。いずれも毒性によるものではなかった。また、変態を一過的に阻害する神経ペプチドホルモンとは別の経路によって作用することが明らかになった。
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