研究概要 |
本年度は,これまでに調べたナガウニ科の5属9種に加え,ナガウニ科に近縁な3科3種についての幼生形態について記載した.さらにナガウニ科の海外種を加えてミトコンドリアDNAのND1及びND2のアミノ酸配列による系統解析を行い,得られた系統樹に基づいた形態形質の進化過程の推測を行った.また,日本本土の海岸に主としてみられるナガウニ科の4種を対象として幼生の性質及び野外分布について調査し,形態変異との関連を調べた.ミトコンドリアDNAに基づく系統解析では,ナガウニ科11種が大きく3つのクレードに分岐していることがわかった.解析に用いた近縁科3種のうち,2種はナガウニ科の外群となったが,1種についてはナガウニ科の内群であることがわかった. 幼生形態の進化過程の推測では,ナガウニ科の中で種間変異として観察される1)主要な骨から生じる短い突起の数では比較的多数の突起をもっていた祖先状態からナガウニ科の中で徐々に減少していったこと,2)末端部分の骨の数では,1本であった祖先状態からナガウニ科内の3つの系統において独立に2本の状態が獲得されたことが推測された.また,3)胴体部の形については,比較的縦長であった祖先状態から3つの系統それぞれで幅広或いはより縦長へ変化していることがわかった.4)左右一対の腕の骨の成す角度については,今回祖先状態を決定することができなかった. 幼生の性質についての調査では,突起の数が多い,或いは末端部分の骨の数が多い種ではより比重が重く,かつ水中での沈降速度が速いことが明らかとなった.摂餌速度については種間で違いはなかった.一方,野外における垂直分布は種によって若干の違いがあることがわかった.この違いは,幼生の比重及び沈降速度の違いとは関連付けられなかったが,分布様式に違いがみられたことから,異なる種の幼生の間で棲み分けが行われている可能性が示唆された.
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