1.オオササエビモは、ササバモとヒロハノエビモの複数回の交雑によって起源した雑種であることが証明された。オオササエビモの遺伝的変異は、多回起源と有性生殖によってもたらされていた。 2.オオササエビモと両親種の生育水位を栽培条件下でコントロールする圃場実験によって干出応答を調査した。片親のササバモでは、沈水状態から干出状態に移した後も新たなシュートを伸長させ、陸生葉を形成した。陸生葉は沈水葉に比べ、葉形、細胞層数、組織分化、クチクラ層の発達、気孔の分化等で顕著な差が見られ、乾燥ストレスに耐えるための適応的な可塑性の表現であることが確認された。しかし、ヒロハノエビモは、そのような可塑的な変化は示さず、干出条件下では枯死した。オオササエビモには、遺伝子型によって陸生形を形成する系統と形成しない系統が認められ、野外で予備的に観察されていた種内における生態的分化の存在が実験的に示された。 3.オオササエビモの各系統ならびに両親種の遺伝子型を酵素多型ならびに葉緑体DNAを用いて解析した結果、可塑性を示したオオササエビモの系統はササバモと共通の遺伝マーカーを、可塑性を示さない系統はヒロハノエビモと共通の遺伝マーカーを有することが判明した。このことはオオササエビモの各遺伝子型において両親種からの乾燥耐性にかかわるゲノムの遺伝様式が異なるという当初の仮説を支持するものである。 4.両親種から受け継いだゲノムの組み合わせの差を具体的に明らかにし、乾燥ストレスに対応して発現する遺伝子(群)を特定することを目的に、室内における培養実験系を確立した。現在、新たな水位変動実験と遺伝子解析を準備中である。
|