1.本年度は主として形態的手法で無腸目の特異性を検討した。前に走査型電子顕微鏡を用いて記載した無腸目Convoluta naikaiensisの初期発生過程をさらに詳しく調べ、産卵から孵化(約90時間後)までを卵割期、陥入期、球形期、扁平期にわけた。卵割様式は2つの大割球を基礎とする変形縲旋卵害であり、変形ラセン卵割で、割球の胚内部への侵入は動物極、植物極の2極で進行した。このように発生様式において無腸目は渦虫綱の他の目には見られないユニークなものであることが確認できた。 2.扁形動物渦虫綱より無腸目、カテヌラ目、多食目、卵黄皮目、順列目、棒腸目、全腔目、三岐腸目、多岐腸目の9目を選び、表皮の構造を透過型電子顕微鏡で比較した。無腸目以外の8目では表皮は細胞間基質がつくる基底膜構造で裏打ちされていたが、無腸目では体表上皮細胞とその下の筋肉組織を隔てる基底膜構造が全く存在せず、表皮と筋肉が複合構造を形成していた。筋表皮複合構造の形成過程を透過型電子顕微鏡で追跡したところ、発生過程においても基底膜構造が出現する時期は全くないという結論を得た。この事実は、無腸目の筋肉表皮複合構造が退化の結果生じたものではないということを示唆している。 3.以上の形態的結果は、無腸目が他の渦虫綱各目とはかけ離れた特異的グループであることを示唆している。今後は分子的解析によりこのことを確かめてゆく予定である。
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