研究概要 |
1.扁形動物渦虫綱の7目(無腸目、カテヌラ目、多食目、棒腸目、全腔目、三岐腸目、多岐腸目)について、ミトコンドリアDNA遺伝子(CO1およびチトクロームb)において遺伝子暗号を推定した。その結果は、無腸目を除く6目においては、コドンAAA, ATAは各々アスパラギン酸、イソロイシンを、無腸目では各々リジン、メチオニンを指定していることを強く示唆していた。 2.18SリボソームDNA(18S rDNA)の塩基配列に基づく扁形動物渦虫綱各目の系統解析を従来より精密に行った。禍虫綱の9目(上記+卵黄皮目、順列目)より、17種を選び、18S rDNAのほぼ全長にあたる約2000塩基対に、データバンクから取得した菌類、原生、海綿、刺胞、有櫛動物、条虫類、吸虫類の配列を加え,近隣結合法、最節約法、最尤法により系統樹を作成した。その結果、無腸目は、渦虫類のなかで最も早期に分岐したグループであるという従来の推定を再確認することが出来た。 3.無腸目Convoluta naikaiensisの発生を卵割期を中心にさらに詳細に調べ、初期細胞系譜を確定した。卵割様式は変形ラセン卵割で、割球が、動物極、植物極の2極から胚内部へ進入するという、渦虫綱の他目には見られないユニークなものであった。 4.渦虫綱上記9目の間で表皮構造とその発生過程を透過型電子顕微鏡観察により比較した。無腸目では他の8目と異なり、表皮と筋肉が複合構造を形成しており、上皮細胞と筋肉組織の間に基底膜構造が全く存在しなかった。また、発生期間中に筋表皮複合構造に基底膜構造が出現する時期は全くなかったので、この筋肉表皮複合構造は退化の結果生じたものではないと思われる。 5.以上の結果は、無腸目は他の渦虫綱各目とは基本的に異なるユニークな動物であることを示唆している。無腸類に対して、扁形動物門とは別な動物門を設定すべきであろう。
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