研究概要 |
細胞質ゲノムであるミトコンドリアDNAは、遺伝子構成の単純さと実験的操作の容易さから、近年分子生物学的にも分子進化学的にも注目されている。無脊椎動物のいくつかの動物群では遺伝子配置に大きな変化が報告されているが、脊椎動物では遺伝子配置は極めてよく保存されている。両生類においては、これまでにアフリカツメガエルとアシナシイモリの僅かに2種で全ゲノムの塩基配列が決定されているが、ゲノム全体に亘る遺伝子配置の変化に関する報告は全くない。本年度の研究目的は、両生類の無尾目アカガエル科の代表的な種であるトノサマガエルを用いて、ミトコンドリアDNAの全塩基配列と遺伝子配置を決定し、これを既に遺伝子配置が報告されている2種の両生類や他の脊椎動物のものと比較することにより、両生類におけるミトコンドリアDNAの遺伝子配置の変化の全貌を明らかにすることである。本年度の実験では、トノサマガエルのミトコンドリアDNAの全長約18.8kbpをEco RIで切断してできる3つのフラグメント(8.8kbp、5.6kbp、4.4kbp)について、pUC19をベクターとしてクローニングを行い、得られた各クローンから作成したディレーションミュータントを用いて、シークエンシングを行った。解析の結果、本種のミトコンドリアDNAの大きさは17,804bpで、これまでに報告されている他の脊椎動物と同様に13の蛋白質遺伝子、2つのリボソームRNA遺伝子、22のtRNA遺伝子の計37の遺伝子を含んでいること、遺伝子配置は4つのtRNA遺伝子(tRNA-Leu(CUN)、tRNA-Thr、tRNA-Pro、tRNA-Phe)でアフリカツメガエルやアシナシイモリや他の多くの脊椎動物のものと大きく異なっていること、22のtRNAの二次構造はすべてクローバーリーフ構造であることなどがわかった。本研究によって、両生類において世界ではじめて遺伝子配置の変化の全貌を解明できたことは、学術的に極めて意義がある。
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