平成13年度には、無尾両生類アカガエル科のトノサマガエルを用いてミトコンドリアDNAの全塩基配列を決定し、本種では4つのtRNA遺伝子の配置が他の脊椎動物のものと異なっていることを報告した。平成14年度には、アオガエル科のカジカガエルのミトコンドリアDNAの全塩基配列を決定し、本種にはトノサマガエルと同様に4つのtRNA遺伝子の配置変化に加えて、ND5遺伝子の転座が固有に起きていることを報告した。さらに平成15年度には、これらのミトコンドリアDNAの遺伝子配置の変化が無尾両生類の進化のどの段階で生じたのかを明らかにするため、アカガエル科から2種、アオガエル科から9種、さらに両科のどちらに近縁か議論のあるマダガスカルガエル科の2種を用いて、上記tRNA遺伝子とND5遺伝子周辺の部分塩基配列を決定した。その結果、アカガエル科では、4つのtRNA遺伝子の配置は同科のトノサマガエルと同じであること、アオガエル科の多くは、トノサマガエルと同じtRNA遺伝子の配置に加え、カジカガエルと同じND5遺伝子の配置を持つことが明らかになった。本研究の結果から、4つのtRNA遺伝子の配置変化は、アカガエル科とアオガエル科の共通の祖先で生じ、ND5遺伝子の転座は、アオガエル科の祖先で生じたと推定された。またマダガスカルガエル科のND5遺伝子の位置はアオガエル科と同じであったことから、本科はアオガエル科に近縁であることが示唆された。さらに本研究では、いくつかのタクサにおける分化の程度を遺伝子レベルで解析し、種分化及び系統進化の過程を解明するうえで有効な指標となる遺伝子を検索するため、アメリカ、ヨーロッパ、アジアのヒキガエル類を用いて、cytb、tRNA、16SrRNA、12SrRNAの4つのミトコンドリア遺伝子の部分塩基配列を決定した。その結果、各遺伝子とも塩基置換率は集団間、亜種間、種間の順で大きくなること、ヒキガエルの系統解析には、それらのうち、塩基置換速度が比較的速く、多くの系統情報が得られるcytb遺伝子を用いるのが、最も適当であることなどが分った。
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