研究概要 |
川井式装置に一辺14mm、先端切り欠き長さ1.5mmの立方体焼結ダイヤモンド(SD)アンビルを使用して2mm3の試料容積に60GPaまでの圧力を繰り返し精度2%で発生させる技術を確立した。最高発生圧力は63GPaに達した。平行して放射光(Spring-8)を用いたX線その場観察実験を進めた。まず鉄の第5の多形β相の探査を行った。44GPa, 2100Kまでの実験ではβ相の存在が完全に否定されε【tautomer】γ相境界線が確定された。GaN, Fe_2O_3の相平衡関係をそれぞれ62GPa/900K, 58GPa/1400Kまでの条件下で決定するとともに室温での電気抵抗の圧力依存性を調べた。GaNのウルツァイト型→岩塩型転移が54GPa/300Kと51.5GPa/750Kにおいて観察され負勾配をとる相境界線が示唆された。Fe_2O_3では圧力の上昇にともなってhematite(I)→Rh_2O_3II型(II)→斜方晶系の相(III)と相転移し、I【tautomer】II, II【tautomer】IIIの相境界線はいずれも負勾配をとることが判明した。GaNの電気抵抗は62GPaまで数10MΩで相転移に伴った変化は観られなかった。一方、Fe_2O_3の電気抵抗は圧力によって、数100MΩ(0GPa)から数Ω以下(58GPa)まで連続的に減少するが、54±1GPaの圧力巾で4桁に及ぶ大きな減少を示すので、これを新たな圧力定点として提案した。 地球形成時に生じたマグマオーシャンの中でのマントル分化をシミュレートするためペリドタイトと隕石由来のモデルマントル物質CIマントルの溶融関係を35GPaまで調べた。ペリドタイトでは31GPa以上ではリキダス相はMg-Pvであり狭い温度範囲でFp, Ca-Pvが追随する。CIマントルでも28GPa以上では温度低下にともなってMg-Pv、Ca-Pvの順に晶出する。以上の結果はマントル下部にMg-Pv, Ca-Pvからなるペロフスカイト層の形成を示唆する。また、Ca-Pvのアルカリ、希土類など大きなイオンに対する収容力の高さはこの層が"地球化学的リザーバー"である可能性も示す。 Mg-Pvをはじめマントル深部物質の1mm程度の"巨大"単結晶を合成する試みが成功を収めつつある。今後この単結晶を用いて弾性測定、輸送現象等の解明を行ってゆく。 注)Mg-Pv:MgSiO3ペロフスカイト;Ca-Pv:CaSiO3ペロフスカイト:Fp:(Mg, Fe)SiO3フェロペリクレース
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