蛋白質の過渡種ダイナミクスと、反応中間体蛋白質の構造の揺らぎの相関を知ることは非常に重要である。幅広い時間スケールでエネルギーと高次の構造変化を追跡し、生体分子の動的landscapeを描くことを目標とした。今年はまず、ヘテロダイン過渡回折格子(TG)システムを構築した。このシステムでは、透過型回折格子を用いてポンプ光とプローブ光を分割し、それを凹面鏡を用いて試料中に集光することで、TG信号とlocal oscillator(LO)を作り出すという原理に基づいた。ポンプ光にYAGレーザーからの紫外光、プローブ光に半導体レーザーからの赤外光を用い、赤外の感度のある検出器を用いることで、これまでのホモダイン検出に比べて約100倍以上高感度のTGシステムを完成させた。このシステムの性能評価を行うため、光励起後熱を発生する試料を用いて、その長時間安定性と時間分解能を検討し、数時間経過してもLO光と信号光の位相が10分の1波長もずれないことを確認した。またその時間分解能は10ナノ秒以上であり、種々の分子ダイナミクスを研究する上で、十分な性能を持っていることがわかった。このシステムを用いて、光合成反応中心の蛋白質ダイナミクスを調べたところ、エネルギーの放出過程と共に構造変化を表すダイナミクスを検出することができた。また、ミオグロビンからのリガンド放出過程を調べるため、Xe存在下で放出ダイナミクスを検討した。この結果、Xeトラッピングサイトがリガンド放出経路に関係していることを室温溶液中で初めて明らかにできた。
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