研究概要 |
既往の研究において、エリスロポエチン受容体のリガンド認識部位を抗ニワトリ卵白リゾチーム(HEL)抗体HyHEL-10の可変領域VH、VLで置換したキメラ受容体HE、LEと、その細胞内ドメインをIL-6受容体β鎖であるgp130で置換したキメラ受容体Hg、Lgを作製し、HEL濃度依存的な増殖シグナル伝達が生じることを示した。本実験では、HELと構造が似ているがHyHEL-10では認識されないhuman lysozyme(hL)に結合する抗体断片をHyHEL-10をベースとしたライブラリーから得る事を目的とした。 まず、Hgの発現ベクターpMX-Hgをもとに、VHの抗原認識部分の4アミノ酸(Y53, S54, S56, Y58)をランダムに換えた発現ベクター(pMX-mHg)を作成し、LEをあらかじめIL-3依存性Ba/F3細胞に導入し発現させた細胞(Ba/LE)へ導入した(Ba/LE+mHg)。この細胞をPBSで洗浄して培養液からIL-3を除き、96wellプレートに細胞をまいてhLを添加して選択した。その結果、hL無添加の場合と比べ多くのクローンが増殖してきた。これらのクローンがhLに応答して増殖シグナルを伝達しているか否かをreporterassayで確認したが、hL応答性のあるクローンは得られなかった。一方、意外にもhL応答性はないがHEL依存的に増殖シグナルが抑制されるクローンが2つ得られた。これらのクローンでは、リガンド非依存的にキメラ受容体が恒常的に活性化されているが、HEL添加によってキメラ受容体のコンフォメーションが変化してシグナル伝達が阻害された可能性が示唆される。全般的に、得られたクローンの配列として、54, 56番目のアミノ酸が野生型と同じS, Sという組み合わせのものが多かったことから、キメラ受容体が活性化されるためにはこの部分の寄与が大きいと考えられる。また、58番目のアミノ酸についてはYからFに変異がかかったものが多く見られることから、キメラ受容体のこのF同士が結合し、恒常的にシグナルを出している可能性も考えられる。以上より、本研究では抗原結合活性が増殖抑制活性に相関する形となったが、キメラ受容体を用いて抗体ライブラリーから抗原結合性の抗体断片を得ることに成功した。
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