放線菌の二次代謝、形態分化の開始を司る制御系の統括的解明

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13854005
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 堀之内 末治 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (80143410)
• キーワード: 放線菌 / 二次代謝 / 形態分化 / A-ファクター / 自己調節因子 / セリン / スレオニンキナーゼ

研究概要

本研究は、放線菌の二大特徴である二次代謝と形態分化に関わる複数の制御機構を統括的に解明しようとするものである。本年度の成果は、以下のようにまとめられる。
1.A-ファクターによって転写がスィツチ・オンされる遺伝子として2種のトリプシン型プロテアーゼと3種のキモトリプシン型プロテアーゼを同定し、AdpAによる転写制御様式および遺伝子破壊による機能解明を試みた。どの遺伝子破壊によっても明確な形質の変化は見られなかったものの、培養後期でのプロテアーゼ発現にA-ファクターが大きく寄与することが判明した。
2.A-ファクターによって、その生産が制御されている黄色色素の化学構造を決定し、主要な2種の色素のうち1つはグリキサジノン骨格を有する新規な物質であった。また、色素生産に関わる全生合成遺伝子をクローニングし、塩基配列を決定した。A-ファクターシグナルはgriRと名付けた転写因子をコードする遺伝子のプロモーターに伝えられ、したがってここがシスエレメントとして機能することが判明した。一方、本色素は培地のリン酸濃度に大きく影響を受けるが、リン酸シグナルもgriRプロモーターに伝えられていた。
3.A-ファクター制御カスケードとcross-talkをするタンパク質リン酸化系であるAfsK/AfsRにつき、TOF-MSを用いてリン酸化残基を決定した。現在、同定された残基に部位特異的変異を行い、最終確認を行っている。
4.グルコース抑制につき、GlkA(グルコースキナーゼ)と特異的に相互作用する複数のタンパク質をアフィニテイーカラムで単離した。今後、アミノ酸配列の決定、遺伝子のクローニングを通じて、これらのタンパク質の機能に迫る。一方、高グルコース条件下でも抗生物質、形態分化を行う変異株を複数分離して、これらをショットガンクローニングの宿主とすることによって、グルコース抑制に関与する可能性のある遺伝子を2種単離した。塩基配列決定、遺伝子破壊を通じてこれらの遺伝子機能を明らかにする。

研究成果

• [文献書誌] Keith F.Chater: "Signalling early developmental events in two highly diverged Streptomyces species."Mol.Microbiol.. 48. 9-15 (2003)
• [文献書誌] Hyo-Kon Chun: "Biotransformation of flavone and flavanone by Streptomyces lividans cells carrying shuffled biphenyl dioxygenase genes."J.Mol.Catal.B.Enzymatic. 21. 113-121 (2003)
• [文献書誌] Sueharu Horinouchi: "AfsR as an integrator of signals that are sensed by multiple serine/threonine kinases in Streptomyces coelicolor A3(2)."J.Ind.Microbiol.Biotechnol.. 30. 462-467 (2003)
• [文献書誌] Eui Il Hwang: "Production of plant-specific flavanones by Escherichia coli containing an artificial gene cluster."Appl.Environ.Microbiol.. 69. 2699-2706 (2003)
• [文献書誌] Masafumi Kaneko: "Heterologous production of flavanones in Escherichia coli : potential for combinatorial biosynthesis of flavonoids in bacteria."J.Ind.Microbiol.Biotechnol.. 30. 456-461 (2003)
• [文献書誌] Ryo Natsume: "Crystallization of CprB, an autoregulator-receptor protein from Streptomyces coelicolor A3(2)."Acta Crystallogr.Sect.D. 59. 2313-2315 (2003)
• [文献書誌] Haruka Yamazaki: "amfR, an essential gene for aerial mycelium formation, is a member of the AdpA regulon in the A-factor regulatory cascade in Streptomyces griseus."Mol.Microbiol.. 50. 1173-1187 (2003)
• [文献書誌] Jun-ya Kato: "A single target is sufficient to account for the biological effects of the A-factor receptor protein of Streptomyces griseus."J.Bacteriol.. 186(in press). (2004)
• [文献書誌] Ryo Natsume: "Crystal structure of a γ-butyrolactone autoregulator receptor protein in Streptomyces coelicolor A3(2)."J.Mol.Biol.. 336. 409-419 (2004)
• [文献書誌] Reiko Sawai: "Phosphorylation of AfsR by multiple serine/threonine kinases in Streptomyces coelicolor A3(2)."Gene. (印刷中). (2004)
• [文献書誌] Yasuo Ohnishi: "Structures of grixazone A and B, A-factor-dependent yellow pigments produced under phosphate depletion by Streptomyces griseusv"J.Antibiot.. 57(印刷中). (2004)
• [文献書誌] 堀之内末治: "放線菌の真核型キナーゼは飾りではなく生育必需品"バイオサイエンスとインダストリー. 61. 330-331 (2003)
• [文献書誌] 大西康夫: "微生物の取り扱いと利用・応用技術"微生物を生産工場とした有用物質生産:新しい微生物利用技術. 252 (2003)