(1)A-ファクター制御カスケード内の鍵となる転写因子AdpAは、二次代謝、形態分化に必要な多くの遺伝子を活性化するが、自信の転写は抑制する。adpAプロモーターには3ヶ所のAdpA結合部位があり、AdpA同士が結合することによってDNAを曲げ、RNAポリメラーゼの接近を妨げる。 (2)AdpAの標的遺伝子として2種のトリプシン、3種のキモトリプシンを同定し、転写活性化機構を明らかにした。さらに、これらのプロテアーゼの阻害タンパク質であるStreptomyces subtilisin inhibitor(SSI)も同様にAdpA支配下にあり、プロテアーゼとその阻害剤による複雑な制御機構の存在を想像させる。なお、SSIは気中菌糸形成の際の基底菌糸分解(アポトーシス)に関わることが判明した。 (3)A-ファクター制御下にある黄色素グリキサゾンの全生合成遺伝子群の転写様式を明らかにした。A-ファクターシグナルは、経路特異的転写因子をコードするgriRに伝達された。なお、生合成遺伝子群とはかけ離れた位置に存在するTetR型転写因子Grizを同定した。 (4)気中菌糸から成熟胞子の形成に関わる5種のSsgファミリー蛋白のうち、3種がA-ファクター制御下にあった。またssg遺伝子群の破壊株を作成し、それらの胞子形成における役割を証明した。 (5)A-ファクター制御下にある二次代謝酵素遺伝子のうち、芳香環へのモノオキシゲナーゼ反応を触媒するMomA、ナフタレン誘導体のアリールカップリングを触媒するP-450mel、フェノキサジノン骨格を生成するGriEなどの酵素反応機構を解明した。これらはコンビナトリアル生合成のための修飾酵素として利用できる可能性がある。
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