研究概要 |
本研究では、メタノールなどの還元型C1化合物や固体状炭化水素などの長鎖アルカンあるいは気体状アルカンに生育する微生物を取り上げ、生化学的側面・分子生物学側面・細胞内構造的側面の3つの観点からその細胞機能について、遺伝子レベルでの解明を目指し、得られた分子基盤をもとに応用研究への糸口を探っている。 1.メタノール資化性酵母のペルオキシソーム動態と応用機能開発 (1)代謝及び蛋白質輸送機能 メタノール酵母に発達しているペルオキシソーム代謝、特に抗酸化代謝機能に関わる2つの蛋白質、カタラーゼとPmp20について、その生理生化学的機能を明らかにした。特にPmp20については、ペルオキシソームに局在するペルオキシレドキシンとして過酸化脂質を基質としたグルタチオンペルオキシダーゼであることを初めて明らかにし、カタラーゼの持つ抗酸化反応との差異を明確にした(JBC,276,14279)。また、これらの蛋白質のペルオキシソームヘの局在化効率には差があることを示し、その差は局在化シグナルとそのレセプターとの相互作用の強さに依存していることがわかった(J.Bact.,183,6372他)。 (2)ペルオキシソーム分解の分子機構 ペルオキシソームの発達した細胞をその不要な培地に移すとペルオキシソームが選択的に分解される。この過程を2重蛍光染色法により1細胞で追跡することにより、液胞が分断化しながらペルオキシソームを包み込みこんで行くことを明らかにした。さらにその過程を支配する20以上のPAZ遺伝子を同定しペルオキシソーム分解の分子モデルを提出した(Genes Cells,7,75他)。 (3)蛋白質生産系への開発と応用 蛋白質やペルオキシソーム分解に関わるPEP4及びPRB1遺伝子をCandida boidiniiiからクローニングして高蛋白質生産用の宿主を創生した。さらに臨床診断酵素として有用なペルオキシソーム酵素であるD-アミノ酸オキシダーゼの高生産に成功した(Biosci, Biotechnol.Biochem.,65,627;ibid.,66 628)。 2.n-アルカン資化性細菌の代謝及び新規細胞内構造体と応用機能開発 固形アルカンを含めて幅広い長鎖アルカンに生育できるAcinetobacter sp. M1株から、アルカン初期反応を酸化するアルカンヒドロキシラーゼ複合体を含む酵素タンパク質遺伝子をクローニングし転写レベルでの調節機構を明らかにした(J.Bact.,183,1819)。また、細胞内にワックスエステルを蓄積する新規細胞内構造体を発見しアシルCoAリダクターゼの役割についての知見を得た(App.Environ.Microbiol.,68 1192.他)。本研究は微生物によるワックスエステル合成を制御するための基礎的な知見となる。
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