研究概要 |
本研究では、メタノールなどの還元型C1化合物や固体状炭化水素などの長鎖アルカンあるいは気体状アルカンに生育する微生物を取り上げ、生化学的側面・分子生物学側面・細胞内構造的側面の3つの観点からその細胞機能について、遺伝子レベルでの解明を目指し、得られた分子基盤をもとに応用研究への糸口を探っている。本年度においては、これらの未来型資源利用微生物が、未来型資源を利用するための、代謝的・分子生物学的側面についての研究成果、及び、昨年度までの研究成果をもとにした応用機能開発研究について発表した。 1.C1微生物のホルムアルデヒド代謝と遺伝子発現制御とカテプシンC生産 C1微生物の代謝において、その代謝中間体であるホルムアルデヒドは、資化経路・異化経路の分岐点となる重要な化合物である。しかるにホルムアルデヒドの細胞内毒性が非常に高いことから、細菌・酵母を問わず関連遺伝子群の発現は厳密な支配下にある。本年度においては細菌・酵母の両者からホルムアルデヒドを代謝する酵素の遺伝子及び遺伝子破壊株を用いて、そのC1代謝における役割について明らかにした(Microbiology,148,2697;FEMS Microbiol.Lett.,214,189)他)。またホルムアルデヒドを生成する酵素であり、かつそのプロモーターが有用タンパク質生産に用いられているalcohol oxidaseの発現制御系に関する新しい知見を得た(Yeast,19,1067)。 同時にこのホルムアルデヒドの毒性を回避しながらメタノール誘導性の遺伝子発現系を用いることにより、有用プロテアーゼの一つであるカテプシンCの分泌高生産に成功した(Appl.Microbiol.Biotechnol.,59,252,他)。またこれら、有用タンパク質の細胞内分解に関する細胞生物学的知見についての最新の成果について発表した(細胞工学 21.618;,生化学 74 1352) 2.n-アルカン資化性細菌の代謝及び新規細胞内構造体と応用機能開発 固形アルカンを含めて幅広い長鎖アルカンに生育できるAcinetobacter sp. M1株の細胞内にワックスエステルを蓄積する新規細胞内構造体を発見しアシルCoAリダクターゼの役割についての知見を得た(App.Environ.Microbiol.,68 1192.他)。またn-アルカンを利用するために重要な酵素である2種類のacyl-CoA dehydrogenaseに関する遺伝子レベルでの知見について発表した(J.Biotechnol.Bioeng.,94 326)。これらの成果は、今後、自然界からの抽出と利用が困難になりつつある、有用なワックスエステルを生産するための重要な知見である。
|