研究概要 |
本年度は、細菌異物排出蛋白発現制御に関して大きな成果が2つ得られた。その一つは、異物排出遺伝子発現の制御に深く関わっていることを当研究室で見出したBaeSR二成分情報伝達系について、その発現制御のGenome-wide analysisを行った。マイクロアレイ解析により、BaeRは59個の遺伝子を正に発現制御することが明らかになった。この中には、異物排出遺伝子と並んで、他の二成分系、走化性、鞭毛生合成、各種の膜輸送体などの遺伝子が含まれており、BaeRが細菌の環境応答のglobal responseに深く関わっていることが明らかになった。もう一つの大きな成果はインドールが細菌細胞間情報伝達物質として働き、異物排出遺伝子のgrowth-dependentな発現を制御していることを発見したことである。インドールはアミノ酸代謝産物の一つであり、生体内に蓄積すると有害な働きがある。菌体外に排出され、菌の生育と共に培地中の濃度が増す。一方、異物排出タンパクの中で、MdtEFは通常は低レベルしか発現していないが、菌の生育が定常期に達するにつれその発現寮は著しく増大する。インドール産生に関わる酵素であるTnaAB欠損菌では、このような生育段階に応じたMdtEFの発現上昇は見られないことを発見した。さらに、インドールを培地中に加えると、対数増殖期であっても、MdtEFの発現が誘導された。インドールはMdtEF以外にも、異物排出タンパクAcrD, MdtABCの発現を誘導する。こちらの方の誘導は、二成分情報伝達系BaeSRおよびCpxARを介することが明らかとなった。これら2つの制御系には相互関係があり、BaeSRがprimaryな制御系でCpxAR系はBaeSR系の働きを増幅する役割をしていることがわかった。acrD, mdtABC遺伝子のプロモーター領域には1個のBaeR結合サイトと、3個ないし2個のCpxR結合サイトがあり、部分的にオーバーラップしていた。二成分系にこのようなクロストークが見られることは大変興味深い。細菌細胞間情報伝達(Quorum sensing)には菌の生育の静止期に働くホモセリンラクトン(AI-1)と対数増殖期に働くAI-2が知られている。大腸菌にはこのうちAI-1に相当する系が欠けている。私たちの知見は、インドールが第3のquorum sensing分子として働き、大腸菌の静止期における細胞間情報伝達を担っていることを示している。実際、インドールが病原性大腸菌の病原性発現にも関与していることを私たちは最近見出している。
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