研究概要 |
翻訳終結に介在するG蛋白質として先に同定したeRF3は、翻訳伸長因子EF1αと相同なC末端領域に加えて、EF1αにないユニークなN末端側付加ドメインを有する。本研究では、このようなN末端側にユニークな機能ドメインを有する新規のG蛋白質eRF3ファミリーについて、翻訳と共役したmRNAの動態制御という全く新しい視点からそれらの機能の解明を目的とし、以下の知見を得た。 1.eRF3のCドメインは終止コドンを認識するeRF1と結合し、一方のNドメインはpoly(A)付加領域を覆ってmRNAの分解を保護するポリ(A)結合蛋白質(PABP)と結合した。2.eRF3のNドメインを欠失させると、poly(A)鎖の短縮が阻害されてmRNAの分解速度は顕著に低下した。3.eRF1-eRF3とPABP間の相互作用は、さらに翻訳開始因子を介するmRNAの環状化を補強し、翻訳を終えたリボソームを開始反応に向けて効率良くリサイクリングさせた。4.PABPによって活性化されるpoly(A)鎖短縮酵素(Poly(A)nuclease, PAN)複合体を同定し、PABPに対してPan複合体とeRF3が互いに競合して結合することを見出した。以上の結果から、"eRF1-eRF3-PABP-PAN"の蛋白質間相互作用が、翻訳終結反応からmRNA分解の律速過程であるPANヌクレアーゼによるポリ(A)鎖長の短縮反応への共役を制御し、同一mRNA上での翻訳頻度の増加がmRNAを分解へと導く(すなわち、使い古されたmRNAが消去される)現象の分子基盤を解明することができた。5.さらにこのファミリーに属する他のG蛋白質メンバー(Ski7,eRFSなど)についても解析を進め、それらが固有のN末端ドメインを介して共通にmRNAの動態制御に介在するという、G蛋白質の新しい役割に関わる概念を提供することもできた。
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