ショウジョウバエの神経幹細胞は、それ自身と姉妹細胞に非対称に分裂する際、神経の運命決定因子である転写因子ProsperoやNotchシグナルの制御因子Numbを姉妹細胞に不等分配する。これらの因子の不等分配は神経細胞の運命決定に必須なプロセスであり、本研究では、そのメカニズムと背後にある細胞極性の分子実体を明らかにすることを目標にしている。神経幹細胞の分裂に際してMiranda分子はProsperoに直接結合し、その細胞内分布と不等分配を規定するアダプター分子であるが、この因子のダイナミックな細胞内の局在は、神経幹細胞の細胞極性を敏感に反映する。このMirandaの細胞内局在を指標として、神経幹細胞の非対称性を制御する因子の系統的な検索を行っている。このスクリーニングは、まだ途中の段階だが、Mirandaの局在に異常をきした突然変異を現在までに24系統分離し、10遺伝子座に分類されている。そのうち、以下の3つの突然変異グループは全く新しい表現形を示す。 (1)ガン抑制遺伝子であるgiant larvaeと似た表現形を示し、遺伝的な相互作用を持つ。 (2)神経幹細胞は正常な極性を保っているが、その方向がランダムになる。 (3)神経幹細胞とその姉妹細胞の大きさが非対称性を失い、形態的な等分裂を行う。 (1)のグループに属する突然変異の原因遺伝子は運命決定因子の局在のメカニズムに機能する未知の因子と予想される。(2)の表現形は、神経幹細胞が自律的に極性を維持すること、また、その極性を外部から方向付けする仕組みのあることを示唆している。形態的な等分裂を引き起こす変異(3)は、細胞軸上に、収縮環の位置を非対称に指定する遺伝子の変異であると考えられ、その原因遺伝子の解析は、細胞内の位置情報の形成に新しい視点を提供する。本研究で行っている突然変異のスクリーニングと解析が非対称分裂と細胞極性の理解に大きな貢献を果たすことを以上の結果は期待させる。
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