研究概要 |
(1)64チャンネル多電極細胞外記録法を用いた上丘内興奮性信号伝播機構 眼球のサッケード運動の制御において鍵となる中脳上丘の局所神経回路における信号伝播の調節機構を明らかにするため、従来行なってきた単一ニューロンからのwhole cell記録法による記録に加えて、スライスを載せる皿に50ミクロン感覚で64個の電極が8x8のマトリクス状に取り付けられた電極を用いて細胞外フィールド電位を記録する手法を組み合わせて解析を行なった。その結果、浅層の電気刺激で通常は浅層に留まっている興奮がbicucullineを投与すると最初にまず浅層内で水平方向に広がった後に中間層・深層に広がっていくことが明らかになった。 (2)脚橋被蓋核(PPTN)ニューロンによる報酬予測信号の符号化 PPTNは脳幹由来のコリン作動性投射の起始核でありドーパミン細胞(DA cell)に投射していることからPPTNからの興奮性入力が,DA cellにおける報酬予測誤差信号の生成に重要な役割を果たすと予想される。そこで,サルに手がかり刺激で報酬量を予測させるサッカード課題を行わせ,PPTNのニューロン活動を記録した。そして,報酬予測によって活動が変化する短潜時応答と,報酬予測の度合いに無関係に,一定の大きさの報酬反応を得た。これらの信号は計算理論で予言されている報酬予測誤差生成の主要な要素である報酬信号と,価値関数に相当すると思われる. (3)一次視覚野の一側性損傷後の残存視覚の性質 一次視覚野が損傷している患者では、障害視野に提示された刺激を認知できないがそれに対する行動は可能であるという盲視(blindsight)という減少が知られている。Blindsightが特別なものではなく、単に健常視野の検出閾値が低下したnear threshold visionであるという説もある。この点を検討するため、健常視野の閾値付近の明るさの刺激に対するサッケードを障害側と比較したところ、サッケードの正確さの制御様式において大きな質的違いがあることを見出した。この結果は盲視が単なるnear threshold visionとは異なるという説を支持する。
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