研究概要 |
本研究は,従来より臨床的鑑別が困難とされてきたAD/HD児と自閉症児を対象に,教育援助的観点から考案した検査を実施し,両児童群における注意メカニズムの相違を実証的に検討することを目的とした.今年度は,3つの研究プロジェクトを実施した. まず,作動記憶モデルに基づき,児童版集団式リーディングスパン検査とリスニングスパン検査を開発した.知能と読解力,聴解力を併せて検査し相関分析を試みた結果,リーディングスパン得点は読解力とIQに対し正の相関を示したのに対し,リスニングスパン得点は読解力と聴解力に正の相関を示したもののIQとの相関はなかった. 次に,高機能自閉症もしくはアスペルガー症候群と診断された非精神遅滞就学児を対象にWISC-RとK-ABCを実施し,そのプロフィールを分析した.分析の結果,WISC-Rの言語性IQと動作性IQの差の現れ方,K-ABCにおける総合尺度標準得点の差の現れ方,いくつかの下位検査の評価点において相違を確認した.この結果に基づき,アスペルガー症候群と高機能自閉症の認知特性の違いを明らかにし,指導援助の方策を考察した. 第3に,小学校1年から6年生までの児童を対象に,選択的注意,持続的注意,反応抑制,注意分割という4種の異なる注意機能を測定するための日本語版集団式注意機能検査を開発した.4検査から得られた6指標について発達的推移を検討したところ,いずれの指標においても学年の経過に伴い得点が上昇していることを確認した.学級担任による不注意評定との関係を分析した結果,低中学年では持続的注意が劣る児童が,高学年では選択的注意が劣る児童が,教師から注意に問題があると評定されやすいことを証明した.
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